目的物の安定性について

特注合成品納品物の保存について

目的物の存在が確認できたにも関わらずその不安定性に起因して単離や提出が困難な場合は報告書のみまたは未精製品提出で一旦全額ご請求させていただき、目的物の安定条件探索や単離精製のための検討につきましては別途でご相談させてください。

未知の化合物合成では予測できない分解に苦労し、目標純度を達成するために多大な労力を要する案件がかなりの頻度で起こります。不安定性要因を取り除いて高純度品を得ることは特注合成の重要なノウハウですが克服は簡単ではありません。ご理解の程、よろしくお願いいたします。

安定性に問題がない、とは以下の全てを満たす、とさせてください。
1.目的物の単離品を溶液状態でスクリュービンなどで実験台上に数日間放置で分解が全く認められない。
2.弊社常設の装置、カラム、分析条件(HPLC、TLC)で分析でき、分解ピークやスポットが認められない(カラムから溶出しない、など安定性以外の要因は除外)。
3.HPLCで認められる目的物ピークがHPLC分取で問題なく単離できる。TLCで認められる目的物のスポット成分をシリカゲルカラムで単離できる。
4.常温の宅配便輸送中の分解の恐れがない(弊社では通常、冷蔵便で発送致します)
要は弊社設備で分解について特に気をつかわずハンドリングできるということです。特殊環境、条件、気候下で安定でも弊社で容易に実現できなければ安定とは認められません。
上記一つでも該当すれば対応不可、ではなく予想できる場合はそれなりの対応策を盛り込んだ見積内容になるということでご理解ください。

安定性に問題ありとは特殊条件でなければ一部分解する、です。具体的には様々な現象がありますが典型例としては
水や溶媒、溶媒中の少量不純物や添加物、空気中の成分などと反応して分解
弊社で日常的に使用するシリカゲルカラムやODS、HPLC精製中の分解や分離能低下
例えば同じシリカゲルやODSでも特定メーカーの担体でなければ分離精製できない
特定のメーカー品あるいは特殊処理した溶媒以外では成功しない
特殊容器を用いなければ容器表面との反応や分解が起こる
蒸留でなければ精製できないが、精製の難易度が格段に上がる微量スケールのご依頼
温和な塩基条件、酸性条件で分解
半減期がある
保存安定性に劣る構造で短期間に分解物を生じる、など上記以外の様々な予想困難な要因。

・弊社では予想外の目的物の安定性に関するリスクを負担できません:取り扱い経験のない有機化合物の安定性や分解の可能性を漏れなく正確に予測することは困難です。
見積段階から予想可能な以下のような場合は安定性に不安がある旨を備考欄に記載の上、対応策を盛り込んだ見積金額をご提示いたしますので追加費用なしで対応致します。備考欄に記載がないということは、安定性についてのトラブルを想定していないということになります。
・光反応性化合物:遮光(例:蛍光色素)
・酸、アルカリに弱い構造:分解が起こりにくいpH条件で処理
・加水分解性化合物であることが明らかな構造:原則未精製で提出。蒸留精製または再結晶精製が可能な場合は相当する費用を盛り込んで見積。(例:NHS活性エステル、禁水化合物)
・重合性化合物:一般的重合禁止剤の添加。但し禁止剤が有効に機能しない場合があるので原則純度保証外。(例:モノマー)
・特定メーカーのカラムによる精製または分析が必要:該当するカラムの購入費用を上乗せで見積
・目的物と反応する可能性:カルボン酸とアルコール、アミンとカルボニル(例:ケトン、アルデヒド、エステル等)。反応性の溶媒を使わない。
・熱安定性:冷却条件での取り扱い、加熱しない濃縮
・高次構造を取り得る構造:有機溶媒を使わず水系での精製条件検討、加熱操作回避、pHの厳密なコントロール(例:タンパクまたは高分子量ペプチド)
上記のような簡便な工夫では分解を免れないレアケースでは安定性試験、分解を免れる精製法の確立に多大な手間と時間を要します。不安定性を克服するための検討費用は見積金額に含まれませんので、下記のようなリスク負担をお願いいたします。
目的物の存在が確認できたにも関わらず予想できなかった不安定性に起因して容易に精製出来ない場合は未精製で一旦全額ご請求させていただき、単離精製のための検討につきましては別途でご相談させてください。

お客様から事前に安定性情報を与えていただける場合や予測が容易な不安定要因については見積に盛り込むことが可能です。割高の見積にならざるを得ませんが、与えていただけない場合は予想外の不安定要因として扱い、清算時にご迷惑をお掛けしてしまいますのでご理解、ご協力をお願いいたします
見積書備考欄に記載がない場合は予想外の分解・不安定要因ということでご理解ください。
・安定性に問題ありの懸念が生じた場合、それを証明するために多くの確認実験を要します。この場合大抵、全額頂いたとしても弊社としては採算が取れません。未精製にも関わらず精製込みの全額請求へのご理解をお願いいたします。
・追加検討の結果、解決策を見いだせず目標純度の達成不可能という結論に至る可能性がございます。追加費用はご請求しませんが、請求済みの返金はご容赦ください。
・お預かりサンプルの精製をお請けして予想外の副反応や不安定さに起因して目的物の大半、またはすべてを失ってしまう可能性があります。弊社では必ず少量の予備検討で精製法を確立した上で残り全量の処理に移りますが、予備検討の結果が再現できないことが稀にあります。 その場合分解に至った経緯、データを可能な限りご提示して詳細にご報告、ご納得頂くよう最善を尽くします。お預かりサンプルの弁償、弊社負担による追加購入等のペナルティはご容赦ください。
・特注合成品は保存安定性についての知見がないため輸送中、保管中の分解に注意が必要です。納品ロットの純度確認分析後に起こる分解、純度低下等につきましては保証外とさせていただきます。

弊社のこれまでの業務の中で安定性に問題があり精製断念、未精製で清算させて頂いたことはたったの1回のみです(他は全て不安定性を七転八倒で克服し、最終的には精製品を提出している)。お客様には精製品が手に入らずお金だけ取られた、という感覚になるでしょうし(嫌味も言われました)、 弊社担当も安定性起因で精製が簡単ではないことを納得頂くための追加データ取り、余計な再現性確認実験等で全くの採算割れです。
両者負け:Lose-Loseの被害者気分になりますので、弊社としても絶対避けたい顛末であることをどうか、ご理解ください。
ちなみに安定性のトラブルで踏み倒された(清算の打診をしたら即、メールブロックされて連絡が取れなくなった)ことが1回だけありました。20万円以上かかった原料費や外部委託費も回収できず、でした。自分たちが一方的に被害者確定なので、この結末の方がむしろもやもやが残っていませんが、二度とご勘弁願いたいのは確かです。

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