リンカー、スペーサー、架橋剤について
二つ以上の化合物(例えば蛍光物質とタンパク)間に挟む、活性には直接影響しない架橋剤を
スペーサー、リンカーと呼んでいます。
親水性、スペーサーの長さ、活性部位との結合様式等、リンカーの性質が全体の性能に大きな影響を及ぼすことがわかっています。適切なリンカーを選択することで活性や性能の最適化が可能になります。
新成化学では創業以来、親水性リンカーとしてポリエチレングリコール(PEG、PEO)誘導体の開発に力を入れています。両末端の各種官能基とリンカーの長さ(エチレングリコール繰り返し単位)を変えることにより様々な用途に対応可能です。
リンカーのそれぞれの特徴、留意点について下記ご紹介いたします。
ポリエチレングリコール(PEG/PEO)
- 繰り返し単位:エチレングリコール(-CH2-CH2-O)-
- 安定性:〇 強烈な酸、アルカリで高温に加熱しない限りエーテル結合は切れませんが末端OH構造は不安定で比較的温和な条件で切れて短い構造を一部副生します(両末端をOH以外の官能基に変換した後は安定です)。
- 低分子市販品入手の容易さ:◎ 比較的短い構造(n=7:リンカー部分のMW=308程度まで)であれば両末端の様々な官能基の市販品が安価に入手できます。
- 高分子市販品入手の容易さ:★エチレンオキシドの重合反応で得られるポリマーを大まかな分子量範囲で分離した混合物であれば分子量10K(1万)以上でも安価に入手可能です。
- 新成化学での繰り返し単位の延長対応:◎ 分子量分布のない単一構造は新成化学でしか対応できないと自負しています。n=220(分子量約9,700)がこれまでの最長ですが、長くなるほど高額になりますのでご注意ください。
ポイント:
- 親水性が高く水、有機溶媒共に良好な溶解性を示します。最も使われているリンカーです。
- リンカーとして以外にも水溶性向上のためにPEGを結合させる用途もあります。
- 分子量500を超えてくると重合法による市販品が安価に入手可能ですが、分子量分布がありますので品質のばらつきがあります。新成化学品は重合法ではありませんので分子量分布のない単一構造です。
ポリプロピレングリコール(ポリオキセタン、PPG/PO)
- 繰り返し単位:プロピレングリコール(-CH2-CH2-CH2-O)-
- 安定性:◎ 強烈な酸、アルカリで高温に加熱しない限り切れません。PEGよりも末端の安定性は高く、短い構造の副生は認められません。
- 低分子入手容易さ:×一般に入手困難です。OH-OH体のn=2は入手可能ですがかなり高価になります。
- 高分子入手容易さ:×入手困難です。
- 新成化学での繰り返し単位の延長対応:〇。弊社ではn=14までの合成実績ですが合成法はほぼ確立できています。需要が見込まれれば高分子合成を本気で取り組みたいと考えています。アルキル鎖の炭素-炭素結合による高分子化は困難ですがアルキルの間に酸素(O)を挟むことが許容されればかなりの高分子単一物質が期待できます。
ポイント:
- PEGとアルキルの中間の性質を持ちます。PEGと比較するとかなり脂溶性が高くなります。
ポリブチレングリコール(ポリTHFリニア構造、PBG)
- 繰り返し単位:ブタンジオール(-CH2-CH2-CH2-CH2-O)-
- 安定性:◎ PPGと同様、強烈な酸、アルカリで高温に加熱しない限り切れません。PEGよりも末端の安定性は高く、短い構造の副生は認められません。
- 低分子入手容易さ:×一般に入手困難です。
- 高分子入手容易さ:×入手困難です。
- 新成化学での繰り返し単位の延長対応:〇。弊社ではポリTHF(環状エーテル)とn=3までしか合成実績がありませんが合成法はほぼ確立できています。需要が見込まれれば高分子合成を本気で取り組みたいと考えています。
ポイント:
- PEGとアルキルの中間の性質を持ちます。PPGよりもさらに脂溶性が高くなり、アルキル構造に近くなります。
- 合成実績はありませんがメチレンの数を増やした構造(ペンタンジオールやヘキサンジオールのポリエーテルなど)も対応可能です。
カーボネート(炭酸エステル)結合とPEGの組み合わせ
- 繰り返し単位:トリエチレングリコールのカーボネート結合(-PEG3-OCO)-
- 安定性:△ 酸には強く、アルカリで加水分解して脱炭酸を起こします。エステルと同程度の安定性です。
- 入手容易さ:入手困難です。
- 繰り返し単位の延長:〇(比較的容易)
ポイント:
- 一般に流通しているポリカーボネート(ビスフェノールAのカーボネート重合体)とは無関係です。
- カーボネート部分の性質(酸には強くアルカリで加水分解)によりPEGとは少し異なる使い方ができると思われます。
- 例ではトリエチレングリコール(PEG3)ですが、任意の長さのPEGnやPPG、PBGなどの構造にも対応可能です。
アミド結合とPEGの組み合わせ
- 繰り返し単位:オリゴエチレングリコールのアミド結合-(PEG5-CONH)-
- 安定性:〇 一般のアミド結合と同程度。余程強い酸またはアルカリで加熱しない限り切れません。
- 高分子入手容易さ:比較的短い構造でも市販品は見当たらず入手困難です。
- 繰り返し単位の延長:◎(大変容易)弊社ではペプチド合成の豊富な経験を生かして短期間で高分子合成が可能です。
ポイント:
- 例ではペンタエチレングリコール(PEG5)のオリゴマーですが、任意の長さのPEGnやPPGn、アルキル等に対応可能です。
- エーテル結合よりも簡便高収率なアミド結合の繰り返し反応を行い、PEGに近い親水性の高分子リンカーを短期間で合成可能です。
- PEGの代わりにアルキルアミノ酸を用いれば低極性高分子リンカーを短時間で合成可能です。
- NH2-COOHと左右非対称構造ですので両末端の選択的反応をコントロールしやすくなります。